名品図鑑

リーバイス507XX セカンド:ワークウェアの進化を刻んだ9年間の伝説

リーバイス507XX セカンド(Type II)は、ワークウェアの枠を超え、ファッションアイコンとなったデニムジャケットです。その誕生からディテール、そして現代に至るまでの影響を深掘りします。

Levi's Denim Jacket Vintage Denim Workwear 507XX Type II

by editorial

色褪せた木製ハンガーに掛けられたヴィンテージインディゴデニムジャケット、雰囲気のある照明
Photo by Thomas Kinto on Unsplash

リーバイス507XX セカンド:ワークウェアの進化を刻んだ9年間の伝説

はじめに

リーバイスのジージャン、すなわちデニムジャケットは、単なる作業着として誕生しただけではありませんでした。それは、アメリカの労働者の象徴から、若者文化、そして普遍的なファッションアイテムへと変遷していく、時代そのものを映し出す鏡のような存在です。中でも、「507XX」、通称「セカンドタイプ」と呼ばれるデニムジャケットは、リーバイスのワークウェアにおける進化の重要な局面を刻み、その後のデニムジャケットデザインに多大な影響を与えた、特筆すべきアイテムと言えるでしょう。本稿では、この「セカンドタイプ」が持つ歴史的意義、構造的な特徴、そして現代における価値について、デニムの歴史家としての視点から深掘りしていきます。

歴史的背景 — 誕生年・ブランドの文脈

リーバイスがリベットで補強されたワークパンツを世に送り出したのは1873年のことでした。その後、同社はワークウェアのラインナップを拡充し、デニムジャケットの原型となる「Blouse」を1905年に発表します。これが後の「ファーストタイプ」であり、Lot 506XXとして知られるモデルへと繋がっていきます。1936年には、このモデルに初めてレッドタブが採用されるなど、ワークウェアとしての実用性とブランドのアイデンティティ確立が進みました。

第二次世界大戦中には、物資統制の影響で、ボタンがナットボタンに変更され、ポケットのフラップが省略されるなど、簡略化されたモデル「S506XX」が登場しました。そして、戦後のアメリカが新たな時代へと歩み出す中、1953年、リーバイスはワークウェアの進化における一つの転換点となるモデルを発表します。それが、Lot 507XX、すなわち「セカンドタイプ」です。このジャケットは、1953年から1962年までの約9年間という比較的限られた期間に製造され、その後のデニムジャケットデザインの礎を築くことになります。

「XX」という名称は、リーバイスが当時使用していた、よりヘビーオンスで耐久性に優れたデニム生地に由来しています。この伝統を受け継ぎつつ、セカンドタイプは、ワークウェアとしての機能性を維持しながらも、より洗練されたデザインへと進化を遂げました。

構造の詳細 — セルヴィッジ・ハードウェア・ステッチ・シルエット

リーバイス507XX セカンドタイプの構造を詳細に見ていくことは、そのデザインの意図と時代背景を理解する上で不可欠です。

  • ファブリック: セカンドタイプには、Cone Mills White Oak製(推定)の右綾(RHT)3x1セルビッジデニムが使用されていました。正確なオンスは諸説ありますが、一般的には12~13oz程度と推測されています。セルビッジ(赤耳)は、デニム生地の端がほつれないように織られたもので、ヴィンテージデニムの重要な特徴の一つです。
  • フロント: フロントはボタンフロント仕様で、金属シャンクボタンが使用されています。スナップボタンではありません。
  • ポケット: セカンドタイプを特徴づける最も顕著な変更点は、両胸にフラップ付きのパッチポケットが対称的に配置されたことです。これは、ファーストタイプが左胸にのみポケットを備えていたのに対し、デザイン的なバランスと収納力の向上をもたらしました。
  • ウエスト調整: ワークウェアとしての実用性とフィット感を考慮し、Type Iのバックルバック(シンチバック)が廃止され、代わりに両サイドにボタンアジャスターが導入されました。これにより、シルエットの調整が容易になり、より現代的な着用感を提供しました。
  • プリーツと補強: フロントのプリーツはType Iと同様にダブルナイフプリーツですが、そのタック留めは、Type Iのボックスステッチから、より頑丈なバータックへと変更されました。これにより、洗濯や着用による負荷への耐久性が高められています。
  • シルエット: セカンドタイプは、ファーストタイプに比べて若干スリムになったものの、依然としてゆったりとしたシルエットを持っています。これは、ワークウェアとしての動きやすさと、当時の一般的な着用スタイルを反映したものです。
  • パッチ: 当初(1955年頃まで)は、Two Horse Brandのレザーパッチが使用されていましたが、その後、Jacron(ジャクロン)と呼ばれるペーパーパッチへと移行しました。このパッチの素材の変化は、年代を特定する上での重要な手がかりとなります。
  • レッドタブ: Type Iから引き続き、レッドタブが左胸ポケットに配されています。この時期のレッドタブは「Big E」と呼ばれる、文字が大きく刺繍されたタイプでした。
  • ステッチ: ポケットの補強や肩口、袖口などにバータックが多用されています。バックポケットにのみ、リーバイスの象徴であるアーキュエイトステッチ(Arcuate stitch)が存在します。

真贋・年代の見分け方(ビンテージ vs レプリカ)

ヴィンテージの507XXは、その希少性から高値で取引されるため、レプリカやリプロダクション品も数多く存在します。オリジナルのヴィンテージ品を見分けるためには、いくつかのディテールに注意を払う必要があります。

  • パッチ: レザーパッチかジャクロンパッチかを確認します。レザーパッチは初期のモデル、ジャクロンパッチは後期のモデルに該当します。
  • ボタン: ボタンの刻印や素材、形状を確認します。
  • ステッチ: バータックの縫製、アーキュエイトステッチの形状や色、糸の太さなどに注意します。
  • セルビッジ: セルビッジの幅や色、織り方などを確認します。
  • レッドタブ: 「Big E」であるか、「小文字のe」であるかを確認します。セカンドタイプは基本的に「Big E」です。
  • リベット: ポケットの補強に使われているカッパーリベットの形状や、裏側の刻印なども年代を特定する手がかりになります。
  • デニムの色落ち: ヴィンテージ特有の自然な色落ちやアタリは、レプリカでは再現が難しい場合があります。

これらのディテールを総合的に判断することで、オリジナルのヴィンテージ品か、それとも後年のリプロダクション品なのかを見分けることが可能になります。

著名人・文化的な登場シーン

1950年代は、アメリカにおいて若者文化が花開き、カジュアルウェアが普及し始めた時代でした。この時代背景の中で、ワークウェアとしてのデニムジャケットは、徐々にファッションアイテムとしての地位を確立していきます。映画スターやミュージシャンといったアイコン的存在が、デニムジャケットを着用する姿がメディアに登場し、その人気はさらに高まりました。

ジェームズ・ディーンが『理由なき反抗』でLee 101Zを、マーロン・ブランドが『ワイルド・ワン』でLevi’s 501を着用したことは、デニムパンツのイメージを革新しました。デニムジャケット、特に507XXのようなデザインは、こうした時代の空気を纏い、「アメカジ」スタイルの象徴として、多くの若者たちの憧れとなりました。特定の映画や人物が507XXに直接結びつくエピソードは限定的ではありますが、この時代のアイコンたちがデニム製品を着用したことが、デニムジャケット全体の人気を後押ししたのは間違いありません。

現在の入手先(ビンテージ市場・レプリカブランド)

現在、リーバイス507XX セカンドタイプのオリジナル・ヴィンテージ品を入手するには、主に以下の方法があります。

  • ヴィンテージ衣料専門の小売店: 全国各地に存在するヴィンテージショップや、オンラインストアでは、状態の良い個体が見つかることがあります。ただし、価格は状態やサイズ、希少性によって大きく変動します。
  • オークションサイト: 個人間での取引が活発なオークションサイトでも出品されることがありますが、真贋を見極める知識が必要です。

一方、オリジナルのヴィンテージ品に限りなく近いディテールを再現したレプリカブランドも数多く存在します。

  • Levi’s Vintage Clothing (LVC): リーバイス自身が展開するLVCラインでは、過去のアーカイブを忠実に再現したレプリカをリリースしています。507XXのレプリカも、その代表的なアイテムの一つです。
  • その他レプリカブランド: 国内外には、ヴィンテージデニムのディテールにこだわり、精巧なレプリカを製造するブランドが多数存在します。これらのブランドの製品は、オリジナルの雰囲気を手軽に楽しむための選択肢となります。

まとめ

リーバイス507XX セカンドタイプは、1953年から1962年までの9年間にわたり製造された、ワークウェアの進化における重要なマイルストーンです。両胸の対称的なポケット、サイドのアジャスター、そして洗練されたシルエットは、それまでのワークジャケットの概念を覆し、ファッションアイテムとしてのデニムジャケットの可能性を広げました。

Type IからType IIへの移行は、単なるデザインの変更ではなく、時代の変化、人々のライフスタイルの変化、そしてファッションとしてのデニムの地位向上を象徴するものでした。現在も、オリジナルのヴィンテージ品は多くのコレクターやデニム愛好家に収集されています。それは、単に古い衣服であるというだけでなく、アメリカの歴史、労働文化、そしてファッションの変遷という、豊かな物語を内包しているからに他なりません。507XXは、これからもデニムの歴史における輝かしい一章として語り継がれていくことでしょう。


参考文献

関連記事